公開から11日目の夕方。
吹き替え版を上映する
シアター10の客入りは私ともう一人の方の2名だけだ。
映画の話
南フランスの農村で暮らす11歳の少年レミは、優しい母と貧しいながらも幸せな毎日を送っていた。そんなある日、長い間パリへ出稼ぎに出ていた義父により、レミは旅芸人の親方ヴィタリスに売り飛ばされてしまう。情の深い親方に歌の才能を見いだされたレミは、犬のカピや猿のジョリクールと親交を深めながら、ひたむきに旅を続けていく。
映画の感想
フランス文学の超メジャー作品で、子供のころにアニメ版を親しんだものとして興味本位で作品に挑んだ。
いつも通りに予備知識無しで見たわけだが、物語は知っているようで知らなかった。
本作の構成は眠れない子供たちのために老人がある少年の物語を話し始め、少年の話が動き出す構成なのだが、この老人が私の大好きなジャック・ペランだ。
彼は私のフェイバリット作品「
ロシュフォールの恋人たち」
で水兵役をさわやかに演じた俳優で、近年は「
ニュー・シネマ・パラダイス」
で成長した主人公役で物語を締めくくったフランスの名優だ。
彼が現れた瞬間に多くの映画ファンやフランス人観客は「あぁ・・・」とバレバレな配役となってしまった事は否めない。
物語は児童文学であるが結構残酷な物語だ。
良家のお坊ちゃんだったはずのレミが大人たちの悪だくみに利用されて過酷な人生を歩む姿が描かれる。
レミが義父に売られるのが大道芸をなりあいとする旅芸人ヴィタリスに売り飛ばされる。
最初ヴィタリスはレミにとって恐怖の存在として描かれるが、彼と接するうちに、彼の優しさに気づく一方、心に傷を負った男だとわかる。ちょうどレミとヴィタリスは関係は物語が進むうちに疑似親子の様な関係に変わっていく。
ヴィタリスを演じるのは、これまた私の大好きな「
ザ・カンニング/IQ=0」
でブレイクして、今やフランスを体表する名優
ダニエル・オートゥイユだ。
本作の主役はレミなのだが、もう私の中では完全にヴィタリスに感情移入してしまう。
ヴィタリスの人生もトラウマ級の恐ろしい過去であり、本作ではセリフの説明で終わってしまったが、彼が背負った十字架級の出来事も映像化すれば、より物語に深みが出たと思う。
後半、物語はレミの出生へと向かうのだが、これまた嫌な大人たちの悪だくみに利用されてしまう。
ロンドンで登場するレミの家族が、私の中では「
悪魔のいけにえ」
の家族を彷彿させる気色悪い家族で「えっーっ」と絶句状態になるが、物語にはまだ裏があり予想外の方向に進み始める。
本作を見る前は「児童映画」なんて高をくくっていたが、とても丁寧に作られた良作だった。
役者の演技や的確な演出もさることながら撮影が良い。
南フランスの雄大なロケーションを生かした横長のシネスコ画面は、クレーンを多用した動きのあるもので、レミが農場で歌を披露するシーンではドローンも活躍していた。
個人的にはジャック・ペランとダニエル・オートゥイユの名演技が見られただけで大満足だ。
もうすぐ映画館での公開も終わりそうだが、もし配信やレンタルで見る機会があったら是非見てほしい。
「家なき子 希望の歌声」は、みなしご系物語の王道の展開であり、小さなお子さんのいる方でも安心して楽しめるファミリー映画の良作だ。