公開3週目の夕方。au会員割引最終日と重なり、客席は間引き着席であるがまんべんなく観客が座っている。若い女性客が多い。
映画の話
平成が終わろうとしている頃、新聞記者の阿久津英士は、昭和最大の未解決事件を追う特別企画班に選ばれ、30年以上前の事件の真相を求めて、残された証拠をもとに取材を重ねる日々を送っていた。その事件では犯行グループが脅迫テープに3人の子どもの声を使用しており、阿久津はそのことがどうしても気になっていた。一方、京都でテーラーを営む曽根俊也は、父の遺品の中にカセットテープを見つける。なんとなく気になりテープを再生してみると、幼いころの自分の声が聞こえてくる。そしてその声は、30年以上前に複数の企業を脅迫して日本中を震撼させた、昭和最大の未解決人で犯行グループが使用した脅迫テープの声と同じものだった。
映画の感想
私が少年時代に世間を震撼させた未解決事件「グリコ・森永事件」をモチーフにした社会派サスペンスだ。
本作は実際の事件を背景にしながら、実際の事件でも使われた「子供の声の脅迫テープ」に焦点が当てられ、その声の主が物語の核となり展開するアイディアと着眼点が秀逸だ。
リアルタイムに事件を知っている私でも随分と時が経ち、忘れていた事がわかりやすく丁寧に描かれているので、事件を知らない若い観客も素直に受け入れられる構成と演出が上手い。
物語は事件を追う新聞記者・阿久津と、子供時代に脅迫テープの声の主となった曽根、二人の視点が同時動き出し、バラバラに真相を追ううちにやがて二人が交差して、阿久津と曽根が一緒に事件の真相を追うと同時に、曽根と同じように脅迫テープに声を使われた2人の子供の行方を追うというものだ。
映画のジャンルに実話を基にした作品は数多くある一方、未解決事件を映画化した作品は少ない。そんな中で一番有名な映画はオリバー・ストーン監督「JFK」だ。実際のケネディ大統領暗殺事件をベースにしながら、事件に推論を含めてかなり切り込んだ内容で世界的な大ヒットした。
しかし、邦画で未解決事件を描いた作品はちょっと思い出せない。唯一、NHKが熱心に「未解決事件」を再現ドラマと証言で構成した番組が思い浮かぶくらいの中で、本作「罪の声」はある意味、現在の邦画に一石を投じる位に切り込んだ作品だと思う。
作品は実際の固有名称は避けて、犯人グループの名称「かい人21面相」は「鞍馬天狗」となり、被害にあったお菓子会社「グリコ」は「ギンガ」、「森永」は「萬堂」と名前はぼやかされて物語は展開する。
主人公・曽根の職業が親から受け継いだテイラーなのだが、自分の真相を知る為に事件記者並みに行動を起こす訳だが、やや行動力があり過ぎた事は否めないが、中盤あたりから阿久津と行動を共にする事で事件の核心に迫る構成は良い。
そんな中で、ちょっと脱線してしまうが、犯人を探るために柔道場に聞き込みに行って
応対するのはテレビドラマ「柔道一直線」で主人公・一条直哉役で知られる桜木健一だったり、学生運動に身を投じた曽根の母役に「さそり」シリーズの梶芽衣子だったり、時代のアイコンを感じさせる役者を上手く使ったキャスティングだ。
話を戻すと、事件のことを知らず幸せな生活を送ってきた曽根とは対照的に、事件にかかわった事で地獄のような生活を送ってきた姉弟のサイドストーリーが悲しすぎて泣けてしまった。
物語は事件にかかわった3人の子供たちについては決着を導いたが、肝心の鞍馬天狗一派は未解決事件の為に、うまくぼやかされたまま逃げられた印象だ。それでも、これだけの未解決事件を手堅くまとめ、一本のドラマとして魅せた原作の力と、監督の手腕は見事だし、主人公を演じた小栗旬と星野源がいい仕事をした。二人ともいい役者になった。「罪の声」は見ごたえある作品であり、今年を代表する一本となることだろう。
おまけ
曽根の祖父が交番に財布を届けたシーンで使われたロケ地は、たぶん間違ってなければ東品川・荏原神社近くの建物だと思う。私が撮影した写真を添付いたします。
原作本